事前確定届出給与の概要を知る

税務

事前確定届出給与

事前確定届出給与と役員賞与

役員賞与を損金にする
- 税務署への届出ルール -

法人税

- 2018.6.29 -

事前確定届出給与とは

概要

会社では普通に従業員へ賞与が支給されます。
勿論、その金額は会社の経費になるのですが、役員の場合は一定の手続きを踏まないと経費にできません。
それは、「決算で利益が出そうだから、役員に賞与を出して法人税を節約しよう!」
といった、恣意的な利益調整を防ぐためです。
そこで、「事前に賞与支給額を税務署へ報告してくれたら、経費に認めますよ」というのが、事前確定届出給与の手続きです。

利用状況

実は、事前確定届出給与は、あまり使われている制度ではありません。
なぜなら、所定期限までの税務署への届出や、所定の時期・金額を払わないと経費にできないといった、厳格な要件があるからです。
「役員のモチベーションになる」とか、「一定の業種では役員賞与を払うことで売上高が増える」、といった事情もあります。
しかし、特別な事情なき限り、例えば、年収:1,200万円が欲しいと思った場合、1,200万円÷12ヵ月=100万円を通常の役員報酬で支払う場合が多いでしょう。

事前確定届出給与の手続き

税務署への書類提出

税務署には「事前確定届出給与に関する届出書」を提出します。
こちらが国税庁の「事前確定届出給与に関する届出書」解説ページです。)
一旦賞与額を税務署に届け出る必要がありますが、後日変更の申請も行なうことができます。
ただし、以下のような事由に該当する場合のみです。

  • ・役員の職制上の地位の変更やその役員の職務の内容の重大な変更
  • ・当該事業年度において経営の状況が著しく悪化した場合

上記に該当する場合は、既に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出していても、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を提出することで、支給額を変更することができます。
こちらが国税庁の「事前確定届出給与に関する変更届出書」解説ページです。)

なお、「当該事業年度において経営の状況が著しく悪化した場合」とは、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけでなく、以下ようなのケースに該当する必要があるため、おいそれと適用することはできません。

  • ・株主に説明責任を果たさなければならない場合(主に上場会社を想定)
  • ・銀行のリスケ協議の一環となる場合
  • ・取引先等の利害関係者保護の観点から経営改善計画が策定される場合

提出期限

事前確定届出給与に関する届出書の提出期限は、以下の通りです(法人税法施行令第69条第4項)。

区分 提出期限
新設法人 設立後2ヶ月以内
新設法人以外で株主総会決議により決める場合 以下のうちいずれか早い日
1.株主総会等の決議日(※但し、決議日が役員の職務執行を開始する日後である場合は、職務執行開始日から1ヶ月以内)
2.会計期間開始日から4ヶ月以内

ここで気になるのが、「職務執行開始日とはいつを指すのか?」ということです。
通常、取締役は会計年度の初日から職務を行なっているようにも思えます。
例えば、3月決算の会社ですと、4/1が職務執行開始日です。

会社法では取締役の任期が定められており、通常:2年ですので、解任されない限り任期は継続します。
だとすれば、新年度の職務執行開始日は4/1と捉える向きもあるでしょう。

しかし、国税庁による役員の職務執行日の捉え方を見ますと、再任された役員の職務執行開始日は「定時株主総会の開催日」とされています(法人税法基本通達9-2-16)。

また、そもそも法人税法上の取締役の任期は何年(または何ヶ月)なのか?という疑問も生じます。
国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成24年4月改定)によると、 役員の職務執行期間は定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの通常1年、とされています。

よって、「1年分を決めたら、次の定時株主総会を待つまで役員賞与の額は変更できない」と考えます。

年の中途で就任した役員の事前確定届出給与

では、会計期間開始日4ヶ月以降に就任した取締役の事前確定届出給与は認められるでしょうか?
この場合「役員の職制上の地位の変更」として随時改定事由に該当するとの考え方もあります。
一方で「改定」は「一度決定したものを変える」という意味で、新任の場合は「決定」であるため、当該随時改定事由には該当しないとする考え方もあります。

該当すると考える見方が多数のように思われますが、明文規定は無くどちらの解釈もありえます。期央の新任取締役に対する事前確定届出給与(特に、形式要件はクリアするものの、実態として配偶者等の親族が役員に就任し従前より職務や権限等に変化がない場合)は行なわない方が無難かもしれません。
※必ずしも認められないわけではありません。例えば従業員→役員への就任ならば、従業員時代に賞与を支給することも考えられます。

なお、新任役員の事前確定届出給与を提出する場合は、変更届出ではなく、事前確定届出給与に関する届出書と付表を提出します。

例えば、就任日が8/1ならば、一ヵ月以内=8/31が期限となります。
ただし、金額が過大と認められる部分については損金算入が認められませんので、ご注意を。

事前確定届出給与を支給しなかった場合

業績悪化等(事前確定届出給与に関する変更届出書の要件を満たさない程度の業績悪化)で、役員賞与:0円となった場合、税務署への届出書は特に不要です。
賞与は支給されていませんので、そもそも損金算入の余地はありません。

事前確定届出給与を届出なく減額・増額した場合

1回当たりの支給額を減額・増額した場合や、2回支給する予定で2回目を支給しなかった場合はどうなるでしょうか?
結論は、1回目も併せて全額経費にできません。
事前確定届出給与は「この先1年間で幾ら払いますよ」ということを確定させる行為です。
つまり、その職務執行期間(=1年)に係る全額が支給されたか否かが問題となるため、否認されるわけです。

なお、複数人役員(ABC)が存在する場合で、一部の役員(C)にのみ全額が支給されなかった場合は、Cのみが経費にできないこととなります(ABは経費算入可)。
ただし、明らかに恣意的な利益調整で不支給・減額としている場合は、税務調査で否認されるでしょう。

【注】本Tipsでは、投稿日時点の情報を掲載しています。記事に関する税務・個別具体的判断につきましては、最寄の税務署または顧問税理士・税理士法人等へ相談確認して下さい。万一当記事に基づいて発生したいかなる損害についても、弊社は一切の責任を負いかねます。