土地の無償返還に関する届出書の実務ポイント

税務

土地の無償返還

権利金・保証金・相当地代の設定

幾らが適正額となるか?
-借主:法人・地主:個人-

その他

- 2017.5.29 -

借地権課税のあらまし

前提条件

以下では実務上頻出する借主:法人、貸主:個人の前提で見ていきます。
当該契約形態は、オーナー会社がオーナーから土地を借りるときに多く発生する事案です。

個人への課税関係

法人が個人からタダで土地を借り建物を建築した場合、個人への認定課税は行なわれません。
なぜなら、現実に収受すべき金員=所得税法第36条に規定する「収入金額」がないからです。
所得税では法人税のように無償による役務提供について収益認定する規定がありません。
(法人税法第22条第2項)
なお、所得税法第59条に規定する低廉譲渡の適用もありません。
本規定の適用対象は「資産の譲渡」であり、借地権の設定は土地の賃貸借に過ぎず「譲渡」とはいえないからです。
(所得税基本通達59-5)

法人への課税関係

「地代」がタダ(同然)であっても、法人への課税関係は発生しません。
なぜなら、支払額が安い分、法人としての所得は増加するため、課税上弊害が無くなるからです。
会計仕訳でいうと以下の認識となります。

(借方) (貸方)
地代家賃 1,000 現金預金 1,000
地代家賃 5,000 受贈益 5,000

ただし、同族会社の行為計算行為否認規定(所得税法第157条)や、小規模宅地の特例を適用するために小額の地代を支払うことが多いでしょう。
なお、借地権の設定にあたり「権利金」等の支払がない場合は、借主に対し受贈益課税がなされます。
(仮に借主=個人、の場合は受贈益課税はナシ)

土地の無償返還に関する届出書を提出する意義

貸主・借主の一方が法人である場合、土地の無償返還に関する届出書を提出することができます。
借地権の設定につき、権利設定時も返還時も無償であることが約束されることで、「税務上は」借地権の設定が無いものとみなされます。
このことで、権利金の支払が無く、相当の地代に満たない地代しか払っていない場合でも、認定課税(=受贈益課税)は行なわれません。
なお、借地権を設定した場合の貸宅地の評価は、自用地評価額の80%相当額になります
借地権割合が高い土地の場合は、敢えて土地の無償返還に関する届出書を提出しないというのも手です。
なお、一旦提出された土地の無償返還に関する届出書は、原則撤回できないと考えられます。

権利金・保証金・地代は幾らが妥当か?

権利金

土地の無償返還に関する届出書を提出する限り、権利金は0円でも問題ありません。
地主の所得増加を抑えるためには、0円とするのが良いでしょう。
(権利金の収受は不動産所得/譲渡所得となり、相続財産にもなります)
なお、定期借地権の設定の場合、一部都市圏を除き権利金を収受するケースは稀のようです。

保証金

保証金は将来借主に返還すべき性質のため、地主(=被相続人)にとっては、債務となります。
一方、定期借地権の場合、保証金を多く積むほど定期借地権の価値は上がる=貸宅地の評価は下がります。
ただし、定期借地権の設定は契約内容により千差万別で個別性が強いため、画一的な保証金の相場というものがありません。
専門家の意見を参考にし、市場相場から大きくかけ離れないようにするのが良いでしょう。

地代

借主が地主に支払う地代が少ないほど、経済的利益=定期借地権の価値は上がります。
その逆もしかりで、貸宅地の評価も下がります。
ただし、安すぎる地代は使用貸借の指摘を受ける危険性もあります。
(つまり、小規模宅地の特例が使えません)
では、賃貸借契約が古いために、相続発生時に支払地代が固定資産税評価額を下回っていた場合はどうでしょうか。
この場合は、民法上は使用貸借でなく賃貸借が有効(=借地権は存在する)と解されてます。
よって、税務上の認識でも同調し、当初契約が賃貸借であれば貸宅地の評価で問題ないと思われます。
以上より、権利設定時には、固定資産税評価額の2~3倍程度に設定するケースが多いようです。

土地賃貸借契約書作成上のポイント

必須条項

土地の無償返還の届出を税務署に提出する場合「将来土地を無償返還する」ことの取り決めが必要になります。
契約書の終わりの方で良いので「本契約を解除するときは、本土地を無償で返還する」といった文言の条項を入れておきましょう。

契約期間

土地の無償返還の届出を出す場合は、オーナー企業がオーナーの土地を借りるケースがほとんどだと思います。
かといっても、相続が発生すれば予期せぬ争いは起こるもの・・。
それを想定し、リスクヘッジのために土地賃貸借の契約期間を1年といった短期に設定する方もいます。
しかし、そもそも借地権の契約期間は原則:最低30年です。
これを下回る契約は無効となりますのでご注意下さい。

法定調書との整合性

土地賃貸借契約書には、月額土地賃料の支払を明記します。
ここで注意したいのが、法定調書との整合性です。
毎年1月に提出する法定調書には「不動産の使用料等の支払調書」があります。
本件事案だと、オーナー企業から個人オーナーへ地代の支払が発生しますので、当該調書を提出する必要があります。
勿論、年間:15万円以下の支払であれば提出は不要となるのですが、土地の無償返還の届出を出す程の事案だと、まず地代年額:15万円は超えてくるでしょう。
契約書通りに地代が払われ、かつ法定調書の数字とも整合性を確認する必要があります。

土地の無償返還に関する届出書を提出した後の対応

届出更新の必要性

一旦法人税確定申告期限までに土地の無償返還に関する届出書を提出すれば、全て終わり・・というわけではありません。
相続を想定して土地の無償返還に関する届出書を提出される方が多いと思いますが、以下のような場合には再度税務署に変動届を提出する必要があります。

  • ①相続等により地主に変更があった場合
  • ②地主の住所変更(所轄税務署の変更)があった場合
  • ③当初契約から改定があった場合
  • ④実際に土地の無償返還が行なわれた場合

土地の無償返還の届出書を出された場合は、長期に渡り税務メンテナンスが必要となります。

【注】本Tipsでは、投稿日時点の情報を掲載しています。記事に関する税務・個別具体的判断につきましては、最寄の税務署または顧問税理士・税理士法人等へ相談確認して下さい。万一当記事に基づいて発生したいかなる損害についても、弊社は一切の責任を負いかねます。