開業費の範囲【個人事業】と資本的支出

税務

開業費と個人事業

開業時の節税対策

必要経費を上手に使おう
-創業時経理の注意点-

所得税

- 2015.08.10 -

開業時固有の経理処理

個人事業主が独立起業した折、多額の経費が発生することがあります。
例えば、店舗改装費用、広告宣伝費、消耗品、仕入商品、器具備品、機械装置等です。
通常の経理処理でも問題はありませんが、開業時のみ選択できる制度もあります。
これが、開業費の経理処理です。
有効活用すれば、節税にも繋がり、初期の資金繰りにもプラスとなります。
該当の取引があれば、積極的に利用したい制度です。

開業費とは

開業費とは、事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用、です。
(所得税法施行令第7条1項1号)

例えば、ある飲食店を例にとって考えてみます。
新店舗オープン時には、以下のような経費が発生します。

  • ①テナント物件の賃貸借契約/店舗改装
  • ②オープニングスタッフの募集/教育研修
  • ③冷蔵庫や調理器具、机イス等の什器設備購入
  • ④チラシ等の広告宣伝費用
  • ⑤食材の仕入

上記のような費用は、購入時に経費とできるもの/できないものの範囲があります。
通常、全て今年の経費とする方が良さそうに思えます。
しかし、業種や利益見込みによっては、来年以降の経費とした方が、税務上有利な場合もあります。

特に、所得税では、超過累進税率(※)を採用しているため、医業等で効果は顕著です。
(※所得が大きいほど、税率が高くなる)
このとき、開業費とすれば、今期の費用でも、来年以降に繰延することができます。

さらに、開業費には、任意償却という処理が認められています。
(所得税法施行令第137条3項)
任意償却とは、簡単に言えば、「いつ経費にしても良いよ」というものです。

例えば、商売が軌道に乗ってきて、4年後から大きな利益が見込まれるとします。
とすれば、4年後からこれを経費とし、利益と相殺することができます。
起業から数年は赤字だと見込まれるのであれば、利益が出始めたときから経費算入という考えです。

開業費の範囲(開業費にできないもの)

開業費の範囲は、その準備のために特別に支出する費用が該当します。
しかし、その全てが開業費にできるわけではありません。
例えば、以下のような経費は範囲外です。

  • ①減価償却資産(一式:10万円以上)
  • ②借入金利子(開業前に事業用建物等の取得に要したもの)

なお、誤り易いのが、上記①の判定です。
居抜き物件等を改装して新規オープンさせる場合、多額の修理・リフォーム費用がかかります。
場合によって、数百万円~数千万円かかることもあります。
しかし、請求書・契約書を良く見ると、一つ一つの工事は小さいこともあります。
例えば、

  • ・壁紙張替え費用:××円
  • ・クッションフロア交換:○○円
  • ・間取り変更工事:△△円

といったような場合です。
工事一式としては、10万円以上となる。
しかし、個々の工事で見れば、10万円未満の集合体である。
このような場合、個々の工事を開発費とできるでしょうか。

答えは、「No」です。
原則、一の計画内で行われた改装工事であれば、その全てを合計して判定します。
判定困難な場合も多く、多額の案件では、税理士等に相談された方が無難です。

また、開発費(=繰延資産)とすれば、償却資産税(地方税)も免れる結果になります。
しかし、当該処理は認められませんので、注意します。

なお、 修繕費と資本的支出の判定はこちら で可能です。

開業費の範囲(開業費にできるもの)

他方、上記固定資産等に該当しない場合、開業費とできます。
なお、個人の場合、法人と異なり、その範囲が広く設定されています。
本来、開業費は「特別に」支出した費用が対象です。

しかし、以下のような費用も開業費の範囲として処理することが可能です。

  • ・人件費
  • ・水道光熱費(電気・ガス・水道等)
  • ・消耗品費(文具等)
  • ・家賃
  • ・市場調査費
  • ・交際費

ところで、開業前とは、いつからいつまでの期間範囲を指すのか、という疑問が生じます。
個人事業を開始した場合、税務署に開業届を提出します。
よって、通常、開業準備の終点はここまでです。

一方、開始時点はいつでしょうか。
確定申告では、その年の1/1~12/31までの期間で、損益を計算します。
したがって、開始時点は1/1時点にも思えますが、そうではありません。
年をまたいで準備をされる方も多くいらっしゃると思われます。
そのような場合、昨年以前に発生した経費でも、開業費にできます。
ただし、2年前、3年前と期間範囲が長くなるにつれ、それなりの合理的理由も必要です。

【注】本Tipsでは、投稿日時点の情報を掲載しています。記事に関する税務・個別具体的判断につきましては、最寄の税務署または顧問税理士・税理士法人等へ相談確認して下さい。万一当記事に基づいて発生したいかなる損害についても、弊社は一切の責任を負いかねます。